政治力
消費者に喜んでもらう商いか/ブローカー的な商売か
現在も南区庚台には、かつて陶芸作品がつくられていた窯場の跡があります。しかし、陶芸の伝統は、行政の保護施策の中になんとか命脈を保っているだけで、恐らく、地域の企業家には、この街に窯場があったことを知る人もほとんどいないでしょう。
それでも、90年代頃までは、西区や南区を中心に、挽物、桐箱づくり、水引などの技能職の方が工房を構えていらっしゃいました。しかし、彼らに発注を出していたのは、みな東京の問屋で、彼らも横浜の企業家をほとんど知らず、企業家も,彼らのことをほとんど知らないという状況にありました。
このことと同様に、横浜の飲食店は「味」で勝負することより、宴会をたくさんとって来れる政治力の方を重んじる傾向があり、また、地域としても、そうした部分での力量をこそ、評価する…そんな声も聞こえてきます。
確かに、美味しい店がないわけではありませんが、そういった店ほど、商工会議所あたりでは無名で、行政も殊更にその存在に留意しているわけではない。そんなふうに思えなくもありません。
開発力の空洞化
「つくる」をどう評価してきたか
中央省庁はまた別なのかもしれませんが、短期間で人事異動が繰り返されていく地方行政においては、専門家が育ちにくい状況にあります。故に、彼らによって、本格的に「質」が問われることはありません。数値をもとに確認作業が行われるだけですし、役所というところ、何をやってもどこか人ごとのような対応に終始するようなところがありますから、身銭を切って家を建てる人が、その住宅の「質」にこだわるような姿勢で仕事に臨む人はあまり多くはありません。
その行政を相手に、政治力や根回しの実力で食べている企業が地域経済の中核を成すようになると、会社の優劣は、その会社の持つ政治力を中心に語られるようになります。例えば、あの建設会社が建てたビルはとても出来がいいとか、そういうことよりも、どんな有力な人物と太いパイプを持ち、どれだけ行政予算を切り取ってきたか、そういうことで会社を評価する気風のようなものが生まれてきます。
一方、そうして行政予算に近いところでの繋がり。その中での位置づけで会社の評価が定まるようなところがあるわけですから、その集団からスポイルされるとか、少なくとも疎遠になることを恐れる気質も生まれ、表立って、他者に否定的な見解を述べる人はいなくなります(もちろん、それは表立ってのことですが)。
たいてい、こうした地域企業のつながりも、一枚岩なものではなく、いくつかの利益集団に別れますが、そのつながりのなかにいる人は、何をするにも、何を買うにも「紹介」という縁故を頼りにしますから、「質」を問わない体質は、建設会社などの地域大手だけでなく、前段で述べたように、飲食店などにまで蔓延していきます。大切な設定に限って、味ではなく、紹介で店を選ぶのです。
こうなれば、表立って他者を批評する人はいなくなります。もちろん、一般の消費者は別だと思いますが、地域経済において聞こえのよいところで批判する人はいなくなります。
ハダカの王様
そして孤立する地域企業
そして、地域企業は消費者から孤立していくことになります。
消費者は、マスメディアだけでなく、インターネットを駆使して、できるだけ廉価なものを探し、また、購入したい商品の「質」を問いながら、情報を検索していきます。そして,近所になければ横浜駅周辺へ。横浜駅周辺になければ東京へ。それが面倒ならネット通販で買えばいい…
彼らに地域のつながりは関係ありません。ただリーズナブルだと思うものを購入すればよいのです。
大きなショッピングモールや大型百貨店の進出について、資本力の違いだけで評価するべきではありません。もしかしたら、地域企業が満たすことの出来なかった消費者の要求を、彼らは、満たすことができた…そういった図式で考えた方が、事実に即しているかもしれません。
ネット通販型の文房具店が、これだけのスピードで地域市場を浸食していった背景にも、既存の文具店に対しての不満があったからなのかもしれません。
すでに、自分は地域企業に勤めているが、ここで買い物はしないという人が大半なのかもしれません。特に若い世代の方はそうだと思います。
しかも、インターネット時代を反映して、流行現象もめまぐるしく展開している…
しかし、若くして起業した方でも、自分の個性とお客さんへの優しさで,自分のファン層を固めていくような方法でお店を展開されている方には、元気な人が見受けられるようになったきた…
まだまだ萌芽の段階だとは思いますが、横浜には新しい風も吹き始めています。
王道だったのか
消費者と対話せよ
いずれにせよ、これまで「これこそが地域企業経営の王道だ」という道を歩み、転換が効かない企業こそ元気がないという感じがします。先が見えないともいえる。
しかし、小さいけれど、現在の消費者像を的確に捉えて、頑張れている人もいる。特に20代、30代で起業した方の中には、この状況下で売り上げを伸ばしている方も多い…
そういう方たちは、たいていが集団で収益をあげるというスタイルではなく、個が集まったユニットであったり、コンビくらいの規模であったりします。
そして、そうした規模に見合った形の会社形態にし、設備投資を押さえ、なによりも消費者をよくみて、彼らの要求に的確に応えようとしている。なかには、消費者自身も,自分としては意識していない「潜在需要」を掘り起こすことに成功している方もいらっしゃるようです。
彼らにとっては、これまで長い間、地域企業を占有してきた既存企業に黄色信号や赤信号がともりつつある今こそ、チャンスなのかもしれません。
よく消費者を観察すること。
その情報から、自分でターゲットを想定し、商いを発想し、ビジネスモデルを組み立てることが出来ること。
インターネットから地域のミニコミ誌まで、よく情報媒体に精通していること。
その上で、予算、発信したい事柄、受け取ってもらいたいターゲットがどんなライフスタイルを持つ人なのかによって、それらを使い分けられる実力があること。つまり、情報発信という面で器用であること。
若い世代の方でも、既存の成功事例をコピーしただけの場合、やはり成果の方は芳しいものにはなっていないようです。やはり、こうした時代には、大きな資本でも持ち合わせていない限り、オリジナルであることが大切なのでしょう。
そういう意味では、一見、ありふれたスタイルの商いに見えても、細部にそこにしかない(他ではなかなか手に入らない)魅力があることで、顧客を増やしている店舗、会社もあるようです。
しかし、こうしたことに地域企業は無関心です。客として彼らの店を訪れたとしても、そこから勉強になるポイントを抽出できると考えている人はごく少数でしょう。
でも、彼らの中には、これからの時代の企業経営のあり方を的確に掴んでいる人たちがいます。旧態然としている地域企業に比較すれば、若くても優秀な経営者はたくさんいます。
もう、より大きくなるという時代は終わりました。地域企業は小ささをこそ活かす時代です(もちろん、これからの時代に合わせて、小さくなるというのもいいでしょう)。
消費者の方を向きながら、経営者の等身大にあわせて小さくなる。そして「質」を追求する。知価を産み出す。概略的にいえば、これが地域企業の生き残る道だと考えています。